創作意欲溢れる作品に期待

 日本の高品質なモノづくりを支える精密加工機械。主に時計やカメラなどの精密部品加工を中心に担った時代から進化を遂げ、現在はスマートフォンや家電、自転車などのより広範囲な分野で欠かせない存在になっている。コロナ禍でモノづくりを取り巻く状況が激しく変化する中でも、日本精密機械工業会(日精工)は互いに支え合い、モノづくりへの情熱をさらに盛り上げようと、今回もコンテストを開催する。

日精工、コロナ禍で4年ぶり

  • 前回の入賞作品ブース(JIMTOF2018)
    前回の入賞作品ブース(JIMTOF2018)
  • 第4回最優秀賞のスギノマシン「メタルチューリップ」
    第4回最優秀賞のスギノマシン「メタルチューリップ」

 日本精密機械工業会(日精工)は2022年、技術力の向上や新しいモノづくりを目指すコンテスト「日本人の匠技(たくみわざ) モノづくりコンテスト」を開催する。20年は新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からコンテストの開催を中止したため、4年ぶりの開催になる。

 応募資格は日本在住の企業・団体または個人であること。また日精工会員企業の工作機械や製品により加工・組み立てた作品であることが条件となっている。日精工会員企業でなくても応募できる。門戸は広く開かれており若い技術者の参加も盛んだ。

 開催の目的はそれぞれの会員企業の製品が持つ得意な技術をコンテストで知ってもらうため。同コンテストの特徴は、自由な発想力を後押しし、純粋にモノづくりの面白さを追求する姿勢にある。実用化の目的にとらわれない自由な発想で、機械の加工能力を最大限に引き出す狙いがある。

 賞金総額は100万円で、最優秀賞には30万円(1件)、優秀賞には10万円が(4件)、特別賞には5万円(6件)を予定している。さらに入賞作品は日本国際工作機械見本市(JIMTOF)2022の日精工出展ブースに展示され、来場者に鑑賞される。JIMTOFは世界的にも主要な見本市の一つであり、新製品の発表などや商談、技術交流でモノづくりに携わる多くの人びとから注目される展示会だ。

 同コンテストの評価基準は技能性だけにとどまらない。デザイン性、アイデア性、ユーモア性、意外性の5項目それぞれに点数が付けられ、その合計で賞が決定する。毎回の応募作品は創作意欲にあふれたものばかりだ。

 今年で開催が5回目となる。第4回の最優秀賞に輝いたスギノマシンの「メタルチューリップ」は、本社が所在する富山県の県花のチューリップを繊細な金属加工で表現した。 あまりにも繊細だったために、壊れぬよう綿で包み会場へ運んだという。作品は薄い金属に細かい葉脈まで再現する高い技術力が評判となった。

 参加表明は3月7日、応募用紙の提出締め切りが8月18日で、作品応募締め切りは10月初旬。選考結果は11月7日に日精工主催の「JIMTOF2022前夜祭」で発表、表彰される。1年間ためこんでいた気力と技術力を存分に発揮した作品が多く集まることが期待されている。

ごあいさつ/生産性向上へ「超精密に挑む」

  • 日本精密機械工業会 会長 髙松 喜与志
    日本精密機械工業会 会長 髙松 喜与志

 日本精密機械工業会は「超精密へのあくなき挑戦」および「会員相互の親睦」を共通のテーマとして掲げ、正会員39社、賛助会員67社、特別会員1名、計107の企業、個人に参加頂いております。

 昨年も新型コロナウイルス感染拡大に伴い、工業会行事の多くをリモートで開催することを余儀なくされ、よって会員相互の「懇親会」をほぼ中止せざるを得なかったことは誠に残念でなりませんでした。さて当工業会では「JAPAN MADE」認証制度をはじめ多様な活動を展開しており、特に日本国際工作機械見本市(JIMTOF)にあわせて主催している「日本人の匠技 モノづくりコンテスト」にも力を入れております。

 審査員として政策研究大学院大学名誉教授の橋本久義先生や理化学研究所大森素形材工学研究室主任研究員の大森整先生をはじめ、5名の審査員により厳正に評価しておりますが、どの作品も毎回悩ませられるほど甲乙つけがたい力作ぞろいであります。JIMTOF期間中は受賞作品を特設ブースに展示しており、超精密・熟練の技を存分に堪能できます。

 工作機械業界において受注高はコロナ前の状況まで回復してきていますが、原材料の高騰や部品不足などでいまだ難題を抱えております。

 しかしながらコロナ禍においても、やれることを確実に実施していくことで、お客さまの生産性向上を担う設備を提供し続けることに全力を尽くしてまいります。

ユーザー導入事例 型研精工

  • 三井精機製MC「HU63EX」
    三井精機製MC「HU63EX」

 型研精工は精密プレス用金型製造や、その金型を使った金属部品加工、プレス用トランスファー装置製造などを手がける。半導体関連や自動車関連に強く、これら業界の受注増への対応や老朽化設備更新による生産性向上を狙い、主力の大分工場(大分県国東市)で積極的な設備投資を進めている。

 2017年から2年で約1億円、その後3年間で約6億円を投資。日本電産シンポ製などのプレス機数台のほか、三菱電機や西部電機のワイヤ放電加工機、三井精機工業製ジグ研削盤、マシニングセンター(MC)といった工作機械だけでなく、品質を高める目的で検査工程も画像検査機や顕微鏡を増やしている。今後は機械の能力を生かすべくデジタル変革(DX)も活用する意向という。

 中磨浩幸取締役大分工場長は積極的な設備投資の理由の一つに30年以上大事に使っていた機械が多かったことを挙げる。故障すると修理に時間がかかる上、「補修部品も減り、限界が来ていた」と振り返る。間隔が空いたので当然、更新した機械類は従来機に比べ格段に性能が良い。従来引き受けられなかったような難しい金型や部品の加工にも挑むことができるようになり「若手技術者の意欲向上にもつながった」(中磨工場長)と思わぬ副産物に目を細める。

 新規導入した機械類の中で、三井精機製横型MC「HU63EX」は、金型プレートなど金型部品を加工するための機械。30年以上使った同社製「HS5A」から入れ替えた。スピンドル(主軸)の回転数や加工精度などのスペックが違うことに加え、長く使ったマシンはプレート加工の平面度や直角精度が落ちていた。そのため、従来MCが担当していた熱処理前の粗加工に加えて熱処理後の寸法出しなどにも使う意向だ。

 大分工場は今後も設備投資が続く。近く高精度門型MCを購入予定で、機械メーカーを選定中。新しいマシンはなるべく若手に任せ、新市場開拓に挑む。

【企業メモ】▽事業内容=精密プレス金型および金型部品の製造・販売、トランスファー装置の設計製造・販売など▽所在地=神奈川県伊勢原市鈴川61の1▽社長=窪嶋竜一氏▽電話=0463・93・4811▽資本金=1億円▽従業員数=約200人▽設立=1975年

ユーザー導入事例 武井製作所

  • シチズンマシナリー製主軸台固定形CNC自動旋盤「ABX-64THY2」
    シチズンマシナリー製主軸台固定形CNC自動旋盤「ABX-64THY2」

 武井製作所は商用トラックや医療機器向けの部品製造を手がけている。少量多品種で幅広いニーズに対応できる強みを生かし、顧客のニーズに柔軟に対応するため、生産性向上への投資の一環として中村留精密工業とシチズンマシナリーの複合旋盤を導入した。

 導入の背景について武井哲郎社長は「限られた資本で、幅広い顧客のニーズに応えなければならない」と語る。現有の工場建屋で少量多品種の生産に対応するためには工程圧縮が必要だった。

 工場には30年近く使用している旧式の機械もあり、工程ごとに旋盤などが分かれていた。工程が増えるとそれ用の機械が必要となるが設置スペースは限られる。また、同一製品を大量に作る受注が減り、難しい形状や高精度の加工が求められる少量の受注が増加していた。

 これらの状況に対応するため、2000年から複合旋盤や自動盤の導入を始めた。導入による工程圧縮で、加工スピードは平均20%向上した。加工のスピードと精度が向上したことで、納期までの時間が短い受注や難しい形状への加工など幅広いニーズに応えられるようになったという。材料を無駄にしない機能があることで、加工に使用する材料を余剰在庫として抱える必要もなくなった。

 複合旋盤の自動化による効果は社員の働き方の変化にもつながった。従来は加工機1台に一人が配置されていたが、複合旋盤の導入を進めたことで、製品検査など人にしかできない仕事へ人員を充てられるようになった。

 これらの効率化の効果により、労働時間を短縮できた。今後は社員の多能工化を進めることで、働き方改革につなげる。武井社長は「人の手の感覚を数値化し、技術をマニュアル化したい」と複合旋盤の導入を通じて技術継承を進める考えだ。

【企業メモ】▽事業内容=金属加工の制作・販売など▽所在地=千葉県松戸市紙敷1567番地▽社長=武井哲郎氏▽電話=047・392・3177▽資本金=1300万円▽従業員数=30人▽設立=1948年

 日刊工業新聞 2022年2月18日(月)付 別2部