多様な素材加工で活躍

 丸鋸は木材や石材、金属、樹脂など、多様な素材の切断に使われている。加工時の高速、高精度化へのニーズに応えてきた丸鋸のメーカーでは、製造現場で求められている省人化対策に応える加工機の自動化を推進。併せて、地球規模で環境配慮への行動が叫ばれる中、環境負荷低減の施策をさらに強化し、新製品開発などに落とし込んでいく方針だ。

 丸鋸を手がける主要メーカーが加盟する日本機械鋸・刃物工業会がまとめた2021年の丸鋸の生産額は前年比25・0%増の109億5200万円。新型コロナウイルス感染症の影響拡大で落ち込んだ前年から、ワクチン接種の進展などで需要の回復傾向をみせた。

 国内では住宅市場の好転などが資材関連の需要に寄与した。国土交通省のまとめによると、21年の新設住宅着工戸数は前年比5・0%増の85万6484戸で、5年ぶりに増加した。

 内訳は持ち家が同9・4%増で、前年の減少から再び増加。貸家は同4・8%増で4年ぶりに増加した。分譲住宅は同1・5%増、前年の減少から21年は増加した。こうしたことから住宅関連のチップソーなどの需要増につながった。

 輸出額も同56・9%増の47億1700万円で、大幅に増加した。自動車関連や木工関連向けが堅調だった。

 設備投資も好調さを持続している。日本工作機械工業会が発表した5月の工作機械受注額(速報値)は前年同月比23・7%増の1533億2100万円で、19カ月連続の増加となった。

 今後の見通しについて、新型コロナ感染症に対する行動制限の緩和が景気回復を後押しするとの見方が多い反面、ウクライナ情勢とも関係するエネルギー価格の高騰、中国のゼロコロナ政策によるサプライチェーンの混乱などの懸念から、メーカーでは、先行きには不明感が強い、とするところもある。

環境配慮対策を一層強化

  • 丸鋸の生産・輸出額(日本機械鋸・刃物工業会調べ)
    丸鋸の生産・輸出額(日本機械鋸・刃物工業会調べ)

 切断加工にはカッターやガス溶断、レーザー、ウオータージェット、プレスによるせん断など、さまざまな方法がある。その中でも丸鋸は加工の精度、速度などに優位性がある。加工材料の多様化とともに技術開発も進んだ。

 加熱圧延された鉄材を切断するホットソー、冷間状態で金属を切断するコールドソーやチップソー、ダイヤモンドソーといった加工材料に適した製品化なされ、対象市場が広がった。

 加工時の高速化対応では、高剛性フレームの採用と刃厚を薄くする薄肉化などに取り組み、摩擦力を低下させて切断速度の向上を図っている。

 モノづくり現場で強まる省人化に伴う生産の効率化に対しは、メーカーではこれを支援する丸鋸切断機の自動化を進めている。アルミニウム用途で切断時間の削減に寄与する高速の自動切断機を製品化したり、木材や樹脂など1枚の部材を無駄なく必要な部材に自動で切り分けたりできる切断機なども提供されている。

 ロボットによって鋸刃を自動交換するコンピューター数値制御(CNC)全自動切断機も開発されている。鍛造部品などの自動車関連向けで、鋸刃の脱着からブレ測定までロボットで自動化する。さらに鉄筋の供給から搬送、切断まで自動化した切断機も製品化されている。一度に2本の切断が可能で、切断作業を効率化でき、省人化にも応えられる。

 また、省人化や自動化への対応とともに、メーカー各社が継続的に重点をおいて取り組んでいるのが鋸刃の長寿命化や歩留まりの向上、省エネルギー化などの環境配慮に寄与する取り組みだ。歩留まりの向上では、刃厚の薄肉化でも取り組んできたが、さらなる向上を図る。

 特にこうした環境配慮の対応は国連の持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みが世界レベルで重視されているだけに、環境負荷低減への一層の行動が求められているからだ。このため、各社はSDGsへの取り組みを新製品開発に生かすのはもちろん、自らの事業活動においても具体化させていく方針だ。

 日刊工業新聞 2022年8月15日(水)付