モノづくりからみたJIMTOFへの期待

 第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)が開催される。4年ぶりのリアル開催で、60周年を迎える。JIMTOFは工作機械と工具の見本市である。一方、モノづくり(素形材製造)の重要な3要素は、材料、機械、工具であって、文字通り密接な関係にある。モノづくりからみたJIMTOFへの期待を赴くままに書いてみよう。最近のモノづくり関連ではデジタル変革(DX)とカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)が大流行しており、少し前までは3Dプリンターが話題の中心であったと記憶している。これらは何年かごとに言葉を変えて現れてくるようだ。何がどのように変わって、どう使えるのか興味のあるところではある。

AMは素形材産業で普及するか/材料設計が重要に

  • 写真1 長炭素繊維を用いて3Dプリンターによって製作したCFRP製品の事例(マークフォージド)
    写真1 長炭素繊維を用いて3Dプリンターによって製作したCFRP製品の事例(マークフォージド)

 3Dプリンター、あるいは積層造形(アディティブ・マニュファクチャリング、AM)という用語が爆発的に使用されるようになってからすでに10年余が経過した。当たり前の技術と認識されたのか、マスコミでも騒がなくなってきたようだ。それだけ一般にも浸透してきたのだろう。最近では、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)などと融合してモノづくりを推進する動きが活発化しており、これらの技術を先取りしていかないと遅れをとってしまうという危機感はどの製造業でも感じているはずである。AMはそもそも3D-CADと切り離しては考えられないので、その先取りの技術だったのかもしれない。

 しかし、素形材に関しては、材料に制限があって使えるのかどうか疑問を持つ人々も多くいることは事実である。何といっても素形材では金属材料が使用できなければ活用範囲が限られてしまうのは否めない。しかし、金属3Dプリンターという呼称も一般的になりつつあり、素形材産業でも徐々に使用できる範囲を広めているようである。今回AMエリアが開設され、従来技術とどのようにすみ分けするのか知りたいところだ。

 この種の最先端技術は長炭素繊維と樹脂押し出し法(Material Extrusion、ME)の組み合わせによる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製品(写真1)製造であろう。コンポジットの一般的な製作法は、サイジング剤で接着されたクロスを積層させてオートクレーブ中で成形する。接着剤は熱硬化性樹脂が使用されている。MEは熱硬化性樹脂では成形できないので熱可塑性樹脂を用いて成形するようになる。より信頼性の高いコンポジット製品を得るには、この場合に発生するボイドやポアの後処理も考慮しなければならないだろう。さらには繊維の配向性などを考慮した材料設計が重要になる。

DXの重要性/中小に使いやすいソフト構築

 DXに関連した展示も多くなるだろう。その本来の意味は、提唱者が言うことと若干ニュアンスが異なるが、現在では「デジタル技術を浸透させることで人々の生活をよりよいものへと変革すること」「既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすもの」と定義されているようだ(※1)。

 前者は筆者も実感している。インターネットやスマートフォンなしでは生活できない人も大勢いるだろう。ますますデジタルデータのモノづくりにおける役割は重要になってくる。工作機械が最新のデジタル技術とどのように融合して、これまで発生していた種々の問題点解決への道しるべを示すのかは興味深い。工作機械に種々のセンサーを付けてデータをとるだけではなく、使えるデータをAIなどで吟味して設計までフィードバックし、モノづくりの高度化を目指す機械とソフトウエアが一体となったシステムが重要となろう。

 例えば、PDM(プロダクト・データ・マネジメント)と工作機械の融合などは大事だろう。PDMは製品の企画・製造から販売までにわたり、設計図や技術情報など多岐にわたる製品情報を管理し、それぞれの担当部署を越え企業内で統合的に一元管理し、効率化と情報の活用を図ろうというものである(※2)。素形材産業における多くの中小企業でも導入し、カスタマイズして自社にとって使い勝手の良いモノづくりシステムを構築してゆくことも重要であろう。

MCによる金型形状加工への期待/加工条件-適切に指示

  • 写真2 金属AMとミーリングの複合加工技術による
部品加工事例(ヤマザキマザック)
    写真2 金属AMとミーリングの複合加工技術による 部品加工事例(ヤマザキマザック)

    写真3 AIによって自動運転するマシニングセンターの事例(キタムラ機械)
    写真3 AIによって自動運転するマシニングセンターの事例(キタムラ機械)

 マシニングセンター(MC)を用いた金型加工では、これからも以下のような発展を期待する(※3)。

◇多機能化・多軸化=どのような形状でも加工ができ、他の加工が複合化できる(写真2)。

◇より高速で加工ができる超高速加工機=より高速で送ることができるMC、併せて高回転の主軸。小型・高精度な金型加工ではさらに高速回転が必要になる。

◇より高精度な加工ができる。超精密MCでもナノ加工が可能になってきている。精密金型ではさらに高精度な加工が期待されている。

◇学習や教育、シミュレーションなどができるMC。現在のコンピューターでできる機能をMCに盛り込んでさらに進化させることが重要である(写真3)。

 切削条件は、切削熱、切削抵抗、表面粗さ、寸法精度、工具寿命・損傷などに大きな影響を与えるので、適正な条件を見いだすことが重要である。切削する際に各要素が変化した場合はこれに応じて試し切削をやらなければ適正化は難しいと言える。これからの工作機械の指向は、このような各加工条件について、適切な指示ができるようなソフト的なサポートが欠かせなくなってくる。この辺は、DXに大いに期待する。

おわりに

 モノづくりに適した加工法を考える上で、何が大切なのかを再考してみよう。まず、新しい素材が創られたときどのような加工で形状を造るのかを考慮しなければならない。次に、設計された形状をどのような加工法で造るのかも重要である。塊だけできても、思い通りの形状に加工できなければ工業製品としては成立しない。最後に高度化である。高精度化、高機能化、高効率など、いろんな高の付く言葉があり、これらを一まとめにして高度化と筆者は呼んでいる。まとめると新素材への対応、新形状への対応および高度化の対応が加工の永遠のテーマである(※4)。

 思った以上のスピードでモノづくりが変革しつつある。まさにデジタルデータのなせる業であろう。良いものを含めてすべてを変えることはないが、時代の流れに逆らったモノづくりはあり得ない。自社に適したスピードで変革を遂行して日本のモノづくりの発展に各社が頑張ってくれることを願っている。

【執筆者】
型技術協会名誉会員 日本金型工業会学術顧問
工学博士 安齋 正博

【参考文献】

※1)https://monstar-lab.com/dx/about/digital_transformation/

※2)https://e-words.jp/w/PDM.html

※3)安齋正博:マシニングセンターと切削加工技術の動向、特集「メカトロテックジャパン2021あす開幕」、日刊工業新聞(2021年10月19日)5-7面

※4)安齋正博:「マシニングセンターと金型加工技術・加工条件」、月刊トライボロジー、No.3(2022)、2

ここが見どころ!JIMTOF2022

 11月8日から13日までの6日間、東京・有明の東京ビッグサイトで第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)が開かれる。主催は日本工作機械工業会(日工会)と東京ビッグサイト。工作機械や関連機器が一堂に会する。工作機械関連の各メーカーは、隔年で開催されるJIMTOFに合わせて最新技術や製品を開発し、市場に投入している。今年は新設された、積層造形(AM)技術が集まる「Additive manufacturingエリア」などが見どころだ。

4年ぶりリアル開催/積層造形-高い前評判

  • 工作機械や関連機器が一堂に会する(JIMTOF2018)
    工作機械や関連機器が一堂に会する(JIMTOF2018)

 JIMTOFは工作機械とその関連機器が一堂に会する展示会。欧州国際工作機械見本市(EMO)、米国の国際製造技術展(IMTS)、中国国際工作機械見本市(CIMT)と並ぶ、世界4大工作機械見本市の一つ。

 東京ビッグサイトの全館を使用し、会場面積約12万平方㍍で開催する。2020年に行われた前回は、新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン開催となったため、4年ぶりのリアル開催となる。旋盤やマシニングセンター(MC)、複合加工機などの工作機械、鍛圧機械、工作機器、機械工具、歯車・歯車装置、試験機器、コンピューター利用設計・製造(CAD/CAM)などが出展される。

 出展者数は861社・団体、5610小間(6月時点)と、過去最大規模での開催となる。内、国内出展企業・団体が788社・団体、5360小間、海外出展企業・団体が73社・団体、250小間。世界各国から最新技術や新製品が集まることが期待される。

 今年の一番の見どころは南展示棟に新設されたAMエリアだろう。AM技術は金属や樹脂などの素材を3次元(3D)積層する造形技術。今後は成長が見込まれ、部品点数の削減や多品種少量生産などを可能にする。同エリアでは出展者による展示エリアに加え、特設セミナー会場も設置。特設セミナー会場では、出展者ワークショップで、各社が最先端の技術を披露する。

日刊工業新聞 2022年10月7日(金)付