工具摩耗低減・加工効率向上

工作油剤・クーラントは金属の切削加工や圧延などの機械加工によって生じる加工熱の冷却や切りくずの除去に不可欠な存在で、幅広い分野の製造現場で活用されている。油剤メーカーは潤滑油をメーンに、切削油や圧延油、防錆油、熱処理油など機能別にさまざまな製品を開発している。油剤や関連機器を手がける各社は製品の品質向上や長寿命化、環境負荷低減といったニーズへの対応を強めることで付加価値を向上し、一段の需要拡大を図っている。

工作油剤は切削および圧延、プレス、引き抜き、鍛造などさまざまな製造現場で活用されている。その主な用途は潤滑、冷却、洗浄で、特に潤滑は油剤の基本機能になる。被削材と工具の表面に形成される分子膜によって摩擦を減少させ、工具摩耗の低減や加工効率向上に大きく貢献する。

 切削の低送り加工領域では特に、被削材と工具との溶着が起こりやすく、構成刃先が生じて加工面が傷つく要因になる。油剤の分子膜はこの構成刃先の生成を抑制し、こうした加工トラブルを防ぐ。プレス加工では金型との分離などで性能を発揮する。

 工作油剤は鉱物油(ベースオイル)を主成分とする不水溶性油剤と、ベースオイルと各種添加剤とを水で希釈して使う水溶性油剤の2種類に大別される。仕上げ面の加工品質や潤滑性能を重視する場合は原液をそのまま使え、油成分の性能を十分に生かせる不水溶性油剤が広く使用されてきた。ただ、油成分の流出やオイルミストの発生などによる作業環境悪化という問題もあり、水溶性油剤の採用が徐々に拡大している。

 水溶性は通常、水で2―10%程度の濃度に希釈して使用される。このため、一定の液量内の油成分が減少し潤滑性能は低下する。この半面、液体の温度は安定しやすくなり、不水溶性よりも冷却性能が高くなる。

 一方で、水溶性には切りくずや異物の混入による液汚れだけでなく、細菌類など微生物の繁殖による液の腐敗・劣化の問題がある。腐敗・劣化した液は悪臭を放つことも。製造現場への水溶性の普及・浸透によって使用される量も増えており、このようなリスクは高まっている。

 このため、メーカーは水溶性油剤の潤滑性能の向上に加え、微生物混入による腐敗や使用期間の短さを克服するロングライフ化など、水溶性油剤の課題解決に取り組んできた。研究開発によって現在、水溶性油剤の潤滑性能は格段に向上。抗菌性のある添加剤を組み合わせて腐敗を抑制し、長寿命化を実現した製品もある。

使用液の再利用技術も進化

さらには、劣化により性能が低下した油剤・クーラントの浄化や再利用技術も進化し、設備・機器が続々と登場している。これらは廃液の発生量を抑え、回収や廃棄にかかわる手間やコストの削減につながる。

 あるメーカーは小型マシニングセンター(MC)でアルミニウムなどのダイカスト加工を行う際に発生する汚泥(スラッジ)を、クーラント液と同時に目詰まりしないように回収する濾過システムを開発。回収した液は精密濾過し、MCの各部のノズルに送って繰り返し使え、廃液時に発生する二酸化炭素(CO2)の削減にもつながる。

 このほか、駆動源がエアで無人で使用でき、防爆処置が必要な場所などにも移設して使用できる研削液濾過装置などもある。微細なセラミックスや金属、ガラスなどを分離・濾過し、高精度で捕集する技術なども開発されている。

 工作油剤・クーラントや濾過装置など関連機器は、工作機械の機能開発や加工素材の軽量・高硬度化など、モノづくりの多様化に応じる形で採用領域を拡大してきた。メーカー各社は今後も環境と調和する製品開発を積極的に展開することで、製造業をサポートし、その進化を支え続けていく。

 日刊工業新聞 2022年7月21日(木)付