高硬度・微細形状を加工

 放電加工は一般に加工用の電極と導電性の加工対象物(ワーク)との間に発生する放電現象を利用した金属加工技術。刃物を用いる切削加工と異なり、非接触の除去加工なので、非常に硬度の高いワークであっても加工できる。また、加工時に刃物を押し当てることがないので、微細な形状であってもワークを壊さずに加工できる。硬い金型やデリケートな精密部品の加工に必要不可欠な技術として、高品質・高機能製品の生産を支えている。

EV・半導体・航空機・医療

  • 最新の放電制御技術を採用し、高速化や電極消耗を抑え、多彩な加工面質を自在にコントロール(ソディック提供)
    最新の放電制御技術を採用し、高速化や電極消耗を抑え、多彩な加工面質を自在にコントロール(ソディック提供)

 放電加工は電極の形状をワークに転写する形彫り放電加工と、非常に細いワイヤ導線を電極として用いて、ワークを切断するワイヤ放電加工が一般的だ。それぞれ形彫り放電加工機、ワイヤ放電加工機が用いられる。

 放電加工は主に金型加工に用いられるが、電気自動車(EV)や半導体、航空機、医療分野などの部品加工にも用いられている。これらは精密部品であるため、より高精度な放電加工機が加工に用いられる。

 自動車産業では高輝度LEDヘッドランプの成形に必要な金型は、より一体化・大型化のニーズが高まっている。航空機業界においては、エンジンに使われるタービンブレードの細穴は、普通のドリルでは切削が難しい難切削材なので放電加工で加工する。

 形彫り放電加工の電極としては銅、グラファイト、銅タングステンなどが用いられる。銅は導電性や加工精度が高いというメリットがあり、一番多く使用されている。グラファイトは近年、加工速度を上げることができ、安価で電極が作りやすいという点から多く用いられるようになってきている。銅タングステンは高価であるが超硬合金の加工でも消耗しにくい。ワークに合わせて電極材料を選ぶことが大切だ。

 近年、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて多くの企業が動いている。ワイヤ放電加工では、従来は回転させずに加工していた電極ワイヤを回転させることで、ワークをワイヤ全面を使って加工することを可能とし、ワイヤ消費量を大幅に削減できるようになった。そのほかにもワイヤのリサイクルなども行われている。

 放電加工は硬い物質を高精度に加工できるが加工速度が遅いという声もあり、加工速度向上のニーズが高い。加工速度向上のため、放電制御技術や加工液の改良などのほか、ワークセッティングの段取り時間の短縮など、工程全体で生産性向上が行われている。

 日刊工業新聞 2022年9月2日(金)付